この研究の目的は、マグマのメルト相に溶解している水が気相として析出(=発泡)するときの体積・密度変化を定量化することにより、マグマの輸送現象をよりよく理解することにあった。9年度の研究ではモデルケースとして流紋岩マグマをとりあげ、そのメルト相への水の溶解度をマグマだまりに相当する温度・圧力条件で溶融実験により決定し、温度の上昇とともに溶解度が減少(発泡度は増加)することを明らかにした。さらに溶解度データを解析し、ソリダス近傍の700℃からリキダスをこえる1200℃にいたる広い温度範囲で、流紋岩マグマだまりのメルト相への水の溶解度を計算できる熱力学モデルを確立した。10年度の研究では、この溶解度の熱力学モデルを流紋岩マグマだまりの発泡現象へ応用し、適当な状態方程式を用いて、流紋岩マグマの体積・密度変化の様子を温度と発泡度の関数として計算することを試みた。この計算で新たに見い出されたことは、50〜100MPaの圧力条件(深さ約2〜4km)の流紋岩マグマだまりでは、温度の上昇にともなう発泡度の増加がそれを考慮しない場合にくらべて、マグマの高温部にかかるthermalbuoyancyforceを5〜10倍大きくするほどの体積増加(密度減少)をひきおこすことである。今回の結果は、浅所にある流紋岩マグマだまりでは、小さな温度擾乱(熱伝導による冷却や新たに注入されたマグマからの熱供給など)でも系の重力不安定を容易に誘起することを示しており、マグマの輸送現象に新たな制約を与えるものである。
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