ウラン-鉛法に基づくジルコン年代学の実用化は、世界最古の岩石や鉱物の発見や、岩石試料の多段階にわたる複合的な熱的進化過程の解明に大きく貢献し、従来の地球科学観を一変した。しかし、高精度なウラン-鉛法による高精度年代データを最大限に利用するためにはウラン-鉛年代測定法とは独立した同位体システムの併用が必要不可欠であることも明らかとなってきた。本研究では、以上の学術的要請と、それに続く工学的な基礎研究の発展に基づき、レーザーICP質量分析法による新しい年代測定法の開発を行った。当初の計画では、第一段階としてハフニウム同位体に基づく年代学を展開する予定であったが、当初の予定よりも高いレベルで装置の分析性能の向上が達成できたため、より年代精度が高く、なおかつ世界的にまだ実用化がなされていない新しい年代測定法(ニオブ-ジルコニウム同位体系年代測定法)の開発にも成功した。本研究で行った開発は、以下に述べるような工学的な要素とその応用としての地球化学的要素である。 工学的要素〜質量分析法の改良: 本研究では、高い分析空間分解能を得るために10ミクロンにまで絞り込んだレーザーを採用した。その結果、分析には、より高い元素検出感度が必要となった。ここでは、真空ポンプの補強、イオンレンズの改良、シールドプラズマイオン源の開発により、従来の20倍の高感度化に成功し、現時点で世界最高感度を達成することができた。 地球科学的応用〜新しい年代測定法の開発: 本研究では、ニオブ-92が放射壊変することを利用した新しい年代測定法(ニオブ-ジルコニウム年代測定法)の開発を行った。10ミクロン以下の微小領域から、0.02%程度の同位体分析精度が得られ、ウラン-鉛年代データを組み合わせることにより、地球形成初期の同位体進化についての議論が可能となった。
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