溶液内の化学的過程を分子レベルで理解することは化学において最も重要なテーマの一つである。溶液内化学過程を第一原理から取り扱う理論的な方法論として分子動力学法が挙げられる。しかしながら分子動力学法では分子間相互作用は経験的なものが用いられ原子核は古典的に扱われる場合が多い。そこで本研究では次の二つのことに着目して、研究を行った。 1. 本研究ではまず原子核の量子効果を取り扱う理論的方法についての研究を行った。対象とした系はおおきな量子効果が期待される常流動液体ヘリウムを選んだ。方法論は経路積分セントロイド分子動力学法を用いた。シミュレーションをおこなった状態点では古典近似のままではヘリウムは固体になってしまい量子効果を取り入れることが不可欠であることを示した。特に得られた拡散係数は10^<-5>cm^2/sのオーダーになり液体状態に期待されるオーダーとなった。この計算はヘリウムの液体状態を動的に生成した初めての研究例である。さらに時空相関の解析を行い、中性子散乱実験から得られた動的構造因子を非常によく再現できることを示した。 2. 溶液内化学反応を第一原理から取り扱う場合、関心のある自由度だけの電子状態を計算することが研究のコストのことから望まれる。この場合、溶媒の自由度は経験的なポテンシャルを用いて近似するわけであるが、エネルギー的にもっとも重要であるクーロン相互作用はなるべく正確に計算したい。そのために各水分子の分極状態がその分子が感じている外場に応答して変化するモデル(分極モデル)を用いたシミュレーションを行い、技術の蓄積を図った。シミュレーショシは水の超臨界状態で行った。この状態は非常に反応性に富んでいることが知られている。1000粒子程度がらなる大規模計算を行い、臨界点付近の大きな密度ゆらぎを再現した。またその密度ゆらぎを分子の間に“結合"を定義し、クラスターの概念を導入することにより微視的に解釈した。
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