第一遷移系列元素二価イオン化合物の理論的なモデルとして、会合的機構で反応が進むと考えられるスカンジウム二価イオンから解離的機構で反応が進むと考えられる銅二価イオンまでの金属イオンを中心とする水和化合物を取り上げ、水交換反応の反応機構を非経験的分子軌道法を用いて明らかにするために、本年度はカルシウム、スカンジウム、銅および亜鉛の二価イオンを中心とする六水和化合物をモデルとして採用した。上記のモデルを採用したのは、計画書にも述べたように第一遷移系列二価イオンは系列の端のイオンほどスピン多重度が小さく計算が容易であるからである。 各モデル分子系に対して、会合的機構と解離的機構の両方について反応座標上の各定常点の構造を非経験的分子軌道法で決定した。得られた反応座標上での定常点が中間体であるか、遷移状態であるか、二次の遷移状態であるか等を同定した。また、カルシウムと亜鉛二価イオンを中心とするモデルについては、水交換反応の固有反応座標を決定した。これらの研究結果を用いて、水和物の会合的七配位状態に注目し、会合的機構におけるカルシウム水和物と亜鉛水和物を比較検討し、対象としたモデルにおいては、会合的七配位状態におけるポテンシャル面の形状が反応機構を決定していることを明らかにできた。 第一遷移系列のさらに他の元素の二価イオンを中心とする水和化合物についても会合的七配位状態の性質を調べることにより、高配位化合物の生成の可否を予想するための新しい概念を与えることができ、配位子交換反応を多用する錯体合成の立体制御のための理論的指針を与えることも期待される。
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