研究概要 |
本年度はTiO_2(110)表面での蟻酸イオン吸着構造とその電子状態に関する研究を行った。表面のモデルに(TiO_2)_n[n=2,4,6,7]のモデルクラスターを用い、計算方法はHF法及びB3LYP法を用いた。Tiの基底関数には短縮基底関数[14sllp5d/5s3p2d]かHay-WadtのECPを使用し、C,H,Oに関してはHuginaga DunningのD95V基底にdiffuse関数と分極関数を付加したものを使用した。なお、本科学研究費によって購入したワークステーションを用いて計算をした。 蟻酸イオンの吸着構造は孤立系の構造をほとんど保持したまま吸着しており、局所構造に関してはモデル依存性はほとんどなかった。しかし、吸着イオンと表面間の距離はモデルによって、0.2Å程度の差が生じた。それに対し、吸着エネルギーはモデル間の差は最大で50kcal/mol程度の差が生じたが、サイズが大きな(TiO_2)_6と(TiO_2)_7では約110kcal/molの吸着エネルギーに収束した。エネルギー分割法によって吸着相互作用を解析したところ、静電相互作用や分極相互作用が安定化の主な原因であることがわかった。また、結合次数解析やMOを詳細に解析した結果でも、この吸着が共有結合性ではないことが示唆された。マ-デルングポテンシャルとして多数の点電荷をモデルクラスターの周りに配置して計算した結果、どのモデルでも吸着距離は同じ値に収束し、かつ吸着前後の電子密度変化も同様な傾向を示すようになった。なお、(TiO_2)_6モデルで約50kcal/molの安定化がマ-デルングポテンシャルによって得られた。以上の結果から、吸着蟻酸イオンの構造及び電子状態を計算するには、(TiO_2)_6程度のサイズのモデルクラスターでマ-デルングポテンシャルを考慮に入れた計算をする必要があることが示唆された。来年度は、STM深針モデルと吸着蟻酸イオンの間の波動関数の重なりからのSTM画像の解釈に取り組む予定である。
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