液体の水は1/f的な揺らぎを示すが、このような揺らぎがどのようなメカニズムにより生じているか、また、他の液体とは何が異なっているか解析を進めている。近年の超高速分光法の発展により、高次非線形分光法が可能になり液体の分子間振動ダイナミクスを詳細に解析できるようになった。本研究では、二次元ラマン分光法の解析を行った。二次元ラマン分光法は、時刻0、t1、t1+t2の3時刻に電場と相互作用するエコータイプの五次非線形分光法であり、二硫化炭素等の実験が進められている。その結果、t1=t2であってもエコーは見られないが、その理由は明らかではない。我々は、二次元ラマン分光法の古典的表式を求め、基準振動解析により水と二硫化炭素の二次元ラマン分光の解析を行った。二次元ラマン分光法では時刻0またはt1で2準位遷移過程が不可欠であり、そのため、基準振動のようにハミルトニアンではモード間の結合が無くても、分極率を通してモード結合が生じることが明らかになった。分極率など電場との相互作用による結合はこれまで考えられていなかったが、これにより振動数が全く変動しない不均一極限でも、エコーが弱くなることが明らかになった。実験で調べられている分子間振動領域では、分極率を通したモード間の結合の影響だけを考慮しても実験同様にエコーが非常に弱くなり、実際の液体では、非調和項の影響もありエコー強度はさらに弱くなる。このように、二次元ラマン分光法はモード結合の情報をもっており、化学反応に重要な運動の解析等に適応できる可能性がある。更に、今回の我々の解析によると、低温の結晶やガラス状態であっても分子間振動を励起する場合にはエコーが生じないことが予想される。また、パイスペクトルによりモード結合の解析も行った。
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