超高エネルギークラスターイオン源は、10^3を超える大きなクラスターを100keV以上の運動エネルギーで衝突・反応させることで、これまで得られない超高温・超高圧状態を実現させるものである。今年度われわれは、このような巨大クラスターを熱緩和した状態で生成する、高温パルスアーク放電クラスター源の開発に成功した。このクラスター源は、従来フラーレンやナノチューブ、および超微粒子の生成手法であるアーク放電法をパルス化し、しかも熱緩和させるため高温炉中で温度を制御しながら行う手法である。アーク放電法はサイズが10^6を超え、しかも熱緩和した超微粒子を生成する優れた手法であるが、多量の冷却気体を使用するという欠点を持っていた。高温パルスアーク放電法はアーク放電法の優れた点をそのまま保持しながら、使用冷却気体が少ないため高真空を必要とする質量分析器に直接接続することなどが可能である。 この装置は真空容器内に高温炉を設置し、その内部でパルスアーク放電を行う。。生成したクラスターは、高温炉に設置したシャッターバルブを通して、質量分析器などに導入される。生成物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて同定した。パルスアーク放電法は従来、常温の超音速流体中で行われてきた。超音速流体中では、冷却ガスの密度(数Torr)と温度(数10K)が低いために、パルスアーク放電で生成したクラスターは急冷され、安定した大きなクラスターは生成しない。われわれの開発した高温パルスアーク放電法は、冷却ガスの密度(数100Torr)と温度(熱100K)が高いために、十分な熱緩和と成長が行われる。 この方法で、われわれは熱緩和が十分に行われた、完全なフラーレンやナノチューブを初めて安定して生成することに成功した。常温のAr中でパルスアーク放電を行った場合、HPLCやSEMではフラーレンやナノチューブは観測されず、急冷されたアモルファス炭素微粒子が測定されるだけであった。900℃に加熱した場合、フラーレンが観測された。これは、クラスター生成源が直接熱緩和したフラーレンを生成した初めての例である。現在ナノチューブの検出を試みている。このように、この高温パルスアーク放電ではこれまで生成できなかった、大きく熱緩和したクラスターを生成することができる。さらに、温度や冷却ガスの種類と圧力を変化させることで、フラーレンやナノチューブの生成機構とともに、効率のよい選択的生成法が確立できるのではないかと考えている。
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