本研究は、過渡回折格子法を中心に、過渡吸収測定法、蛍光測定法などを応用して、熱水中での光励起反応におけるエネルギーダイナミクスと生成した分子の拡散過程の測定を行ない、通常の有機溶媒と比較して熱水に特徴的なダイナミクスを明らかにすることを目的とする。本年度は熱水中でこれらの分光学的測定をおこなうための高圧光学容器の設計と制作を中心に研究を進めた。具体的には、上記の分光法全てに対してまかなえるよう、二方窓付きで、温度コントロールを±1Kを目標に小型の高温高圧用の光学セルをデザインした。設計耐圧は2000気圧、温度は500℃であり、水の超臨界状態を十分カバーできるものとなっている。また、セル内の溶液は外部高圧ポンプによりコントロールされるが、セルとポンプの間にミキサ-を入れることにより試料の濃度が調節できる仕様とした。高温高耐圧の仕様のための材料として始めチタン合金を選んで制作を進めていたが、途中、水の対してチタン合金が不安定である可能性を示す結果が得られたため、現在、材料を耐熱耐水ステンレスに変更してセルを制作中であり、制作完了後、耐圧試験および温度コントロールテストをおこない、必要があれば改良を行なう予定である。一方で、測定に適切な試料を探索するために、120℃までの条件で、ベンゾフェノン、アセトナフトン等のカルボニル化合物に対して水中で過渡回折格子法による無輻射失活過程の測定をおこない、適切なプローブ波長を選べば、三重項状態の量子収率ならびに三重項状態からの無輻射失活速度を求めることができることがわかった。次年度は新しくできるセルを用いて、超臨界状態の水中での測定に適用する予定である。
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