化学反応における遷移状態近傍における分子の構造や内部状態分布は反応速度や反応分岐などすべての反応機構を決定する。本研究の目的はドプラー分光法とイオンの飛行時間法を組み合わせた実験方法を用いて反応の遷移状態近傍における分子の分光学的情報を求め、遷移状態近傍におけるポテンシャルエネルギー曲面を実験的に求めることにある。 本年度は上記の実験目的を達成するための実験装置の開発を行った。先ず、ヨウ化メチル分子を超音速分子線とし、ヨウ化メチル分子のクラスターを生成することに成功した。クラスター分子を280nmのレーザー光により解離し、生成したヨウ素原子を多光子イオン化法により検出した。実験結果からクラスター分子の光解離によるヨウ素原子の生成過程には少なくとも二つの生成過程が存在することがわかった。一つは分子内衝突を起こさずにヨウ素原子が生成するチャンネルで、他方は分子内衝突を起こした後、生成するチャンネルであることがわかった。一方、クラスター分子の光解離においては、モノマー分子の光解離に比べ生成する励起状態のヨウ素原子の反応分岐比が減少することがわかった。これは分子内衝突により衝突緩和が起こっているためであると考えられる。他方、我々はヨウ化メチル分子クラスターの光解離によりI_2分子が生成し、その後これが光を吸収しヨウ素原子を生成するチャンネルを見いだした。現在、実験結果のより詳細な解析を行った後、結果を報告する予定である。 一方、我々はHC1分子の二量体クラスターの光解離に関する研究を現在行っている。HC1分子の二量体クラスターを光解離する事で[C1HC1]分子を生成し、その内部状態分布を同時に生成したH原子の運動エネルギー分布を調べることにより決定する。現在、その検出のための121.6nm光の発生に成功し、実験を進行している。
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