有機ラジカルの複屈折の磁気変調を利用して磁場効果を測る際に重要な点は、ラジカルの選択である。ラジカルの複屈折が溶媒のそれよりも大きくなければ、ラジカルの磁場効果を複屈折の磁気変調を使って測定できない。ラジカルの磁気変調の変化分が溶媒のそれに隠れてしまうからである。 そこで、まず研究の測定装置上の性能を評価するために、われわれの研究室で従来よく研究され、その反応機構が熟知されている反応系を利用することにした。そこで芳香族ケトンのベンゾフェノンのミセル溶液からの水素引き抜きで生じる、芳香族ラジカルであるベンゾフェノンケチルラジカルからなるラジカル対の反応系を、ナノ秒紫外パルスレーザーを使った過渡吸収の装置を使って作り、その磁場効果のデータを測定した。次にそのラジカル対の複屈折の磁気変調(ファラデー効果)を測定した。過渡吸収のキセノンランプの代わりにヘリウムネオンレーザーをモニター光として、紫外レーザーを照射した際の直接偏光の偏光角の変化を測定した。しかし偏光角モニターによるラジカル対の磁場効果は非常に小さかった。原因として溶媒によるファラデー効果をいかに取り除くか、つまりラジカル対の生成濃度をいかに高濃度にするか、それとファラデー効果の場合、偏光角の変化は磁場強度の1次に比例するので、14Tの強磁場であってもそれを有効に使っていないなどの問題が浮上した。そこでラジカル対の濃度の問題はレーザー光強度を増加させ試料濃度も増加させる事でカバーし、そしてファデラ-効果の代わりにフォークト効果を使って偏光角の変化分が磁場強度の2次に比例するようにし、強磁場において偏光角がより変化するような測定系に変更する事にした。
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