必然的に膨大な基底数を要する量子力学計算において、可能な限り少ない基底数で定量的計算を実現する量子系に適した基底系の開発を目指した。その初期目標として本年度の課題であった一次元系の解適合基底系の開発に成功した。今回新たに開発された基底は、階層的有限要素法の特徴を利用して構築された。すなわち、階層的有限要素法が持つパラメータである節点分布及び要素内基底次数を扱う系と求めたい波動関数の性質に適合させることによって効率の良い解の記述を可能にした。この際、複数の未知パラメータの大局的最適値の組を得ることは一般に困難であるため、次の様な逐次的手法によりこの問題を解決した。まず、第一段階として基底が系のポテンシャル関数を表現する際に生じる誤差を各要素に等分配する様に要素の節点分布を求めた。この様に節点分布を最適化することによって、解である波動関数の振る舞いに大きな影響を及ぼすポテンシャル関数の性質をより正確に表現できる様になった。その後、第二段階として求めたい固有関数を定めその解の振舞いの記述に必要とされる要素内基底のみを各要素に補充しながら解を求めた。このように選択的に要素内基底を積み上げることにより要素内基底次数の分布が最適化され、全体としての基底系の解適合性が実現した。 開発された基底系の有用性を示すために、上記の解適合基底系を一次元調和振動子の固有値問題に適用し従来の格子点法及び固定次数有限要素法の結果との比較を行った。基底数を増加させながら計算を行った結果によると、基底状態、励起状態の計算のいずれにおいても他の方法に比べて得られた固有値の収束の速度において著しい改善が見られた。この事実は、従来の方法では定量的な結果を得るに足る程の十分な基底を用意することが困難である多次元系の量子力学計算において解適合有限要素法が非常に有用であること示唆している。
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