本年度は、以下の三つの研究成果を得ることができた。 (i) 硫化カルボニル(OCS)の光解離過程の理論的研究 一昨年前から分子科学研究所の鈴木俊法グループと共同研究を始め、実験と理論の双方からOCSの光解離過程の解明を行って来た。特に、解離生成物であるCOの回転準位分布に二つのピークがあり、大きなピークはA'とA"状態を経て解離する一方、小さなピークはA'状態のみを経て解離していることが判明した。本年度は、理論計算において初期状態として振動励起状態を幾つか選び、解離過程への影響を予測した。その結果によると、変角振動および、CS伸縮振動を励起しても生成物であるCO分子の回転状態分布に大差は現れないことが予測された。 (ii) C_<84>フラーレンの異性体に対する構造と振動スペクトル C_<84>フラーレンは24個の異性体が存在し、それらの実験による単離と同定が重要な問題となって来ている。我々は、24個の異性体の内C_2、D_2、D_<2d>対称性に属する構造について非経験的分子軌道法による安定構造の探索とその構造に対する振動解析を行い、IRスペクトルを理論的に求めた。その結果、幾つかのバンドが異性体の「指紋」として見なすことが出来ることを示した。 (iii) HCP分子の^1Δ電子励起状態における前期解離過程の理論的研究 東北大学の三上教授グループが実験による電子励起状態1^1Δにおける前期解離過程の研究をはじめ、回転線の中に長寿命のものと短寿命のものが混在していることを見出している。本研究では、この現象はRenner-Teller振動結合による前期解離過程が起こっているのではないかと仮定し、理論的検証を行う。本年度は、非経験的分子軌道法に基づく配置間相互作用計算を行い、三原子分子のポテンシャルエネルギー曲面を求め、核の運動を量子化学計算により求めた。得られた結果は実験結果を再現するものとなり、今まで報告されていなかった電子励起状態上の振動準位の理論結果を報告した。
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