研究概要 |
反応余剰エネルギーの散逸は、液相中での化学反応を理解するうえで重要な過程である。初期の振動励起状態およびそこからの分子内、分子間緩和過程を調べるには分子振動モードごとの情報が必要であるが、それはアンチストークス線強度の時間変化から得ることができる。われわれは昨年度、ニッケルオクタエチルポルフィリンの(d,d)励起状態への内部転換直後の振動励起状態は、ポルフィリンのような大きな分子であってもボルツマン分布がサブピコ秒では達成されていないということを報告した。今回はより多くのアンチストークスラマン線について解析を行い、初期の振動励起分布とそこからの分子内再分配過程について考察した。 400cm^<-1>から1700cm^<-1>のアンチストークス領域にA_<1g>モード5本、B_<1g>モード3本、エチル基モード3本の合計11本のラマン線を観測した。アンチストークス線強度の時間変化は2つの減衰成分からなる。このうち速い成分(τ_1)は振動冷却過程、遅い成分は(τ_2)は(d,d)励起状態から電子基底状態への緩和に対応すると考えられる。また強度の立ち上がり(τ_<risc>)は、瞬間的に立ち上がるものと数ピコ秒の遅れを持つものがみられた。さらに、この遅れも1ピコ秒から3ピコ秒の範囲にわたり一様ではなかった。傾向としてA_<1g>モード以外は立ち上がりに遅れが見られ、かつ全体に定波数のモードの遅れがより大きいことがわかった。強度の立ち上がりのモードによる違いは、初期の振動励起分布からの分子内再分配過程を反映していると考えられる。これらの違いは、非Borm-Oppenheimer近似に基づく無輻射遷移の理論によって定性的に説明することができ、各振動モードのaccepting modeになりやすさを反映していると考えられる。
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