本研究は走行性バクテリアE.Halophilaの光情報素子の役割をする光活性蛋白質PYPとそのクロモフォアであるピークマリル酸チオエステル(p-CAG)について、光反応初期過程のダイナミックスをfs-ps分光によって明らかにし、結果を他の光活性蛋白質と比較検討するのが主な目的である。そのためTi-サファイアfsレーザーによる蛍光のup conversion法による測定装置でwild type PYPの励起一重項状態の減衰過程の測定を行い、クロモフォアの超高速trans→cis光異性化反応に基く蛍光の数100fs-数ps領域での非指数関数的減衰曲線を世界に先駈けて明らかにした。一方、変性剤を溶液に加えて蛋白質のfoldingをほどき、p-CEAを水溶液中にさらした状態では11psの長寿命で単一指数関数の減衰を示すことを確かめた。このことは、PYP蛋白質中でクロモフォアが周囲のアミノ酸残基にかこまれたナノスペースにおいて、水溶液中に比べて反応が大きく加速されていることを示しており極めて興味深い。このPYPの蛍光ダイナミックスを、同様なfs-レーザー分光による測定結果があるバクテリオロドプシン(bR)の場合と比べると、bRのクロモフォアはtrans-レチナ-ルのプロトン化シッフ塩基でp-CAEとは全く異なる系であるが極めてよく似ておりこの点も興味深い。PYPもbRも蛍光の非指数関数的減衰を示すが、この原因としては光異性化反応がbarrielessの超高速反応であることや、蛍光状態におけるクロモフォアや周囲の蛋白質媒体の構造の不均一性が考えられるが、この問題に関しては、遺伝子操作によるクロモフォア周辺のアミノ酸残基を改変した変異系についての研究が重要と考えられ、PYPについてはすでに研究を始めており、bRについても計画中である。
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