KratschemerらによってC_<60>の大量合成法が発見されて以来、この骨格の化学的反応性が詳しく調べられ、現在では種々の官能基化が可能になりつつある。しかしながら、二ヶ以上の置換基を導入した場合、位置異性体の混合物が得られることが報告されている。フラーレン母体の機能性分子を構築する上で、"反応位置の制御"は、現在のフラーレン化学が抱える大きな課題の一つであり、新たな方法論の開発が必要である。そこで、本研究では、C_<60>骨格への位置選択的な置換基導入法を確立することを目的として、ホストーゲスト相互作用とC_<60>の構造的特徴を利用した新規な合成手法を計画立案した。本研究を遂行するに当たって、以下の研究項目を実施した。まず、(1)誘導体化が容易なエステル基を位置選択的に配置したカリックス[8]アレンをホストの中間原料として合成した。ここで、本化合物はカリックス[8]アレン誘導体の中では、水酸基のパラ位に二種類の置換基をもつ最初のものであるため、合成戦略を注意深く検討しながら合成を行った。次いで、(2)合成したカリックス[8]アレン誘導体のホスト能を左右するコンホメーションおよび分子運動を解析し、その特異な構造を反映した新規な分子運動を発見した。また、(3)合成したカリックス[8]アレンとC_<60>とのホストーゲスト相互作用を紫外可視吸収スペクトルを用いて検討した。しかしながら、合成したホストとC_<60>との相互作用は極めて弱いことが判明した。この実験事実は、本研究を遂行する上で大きな課題であり、C_<60>と強く相互作用できるホスト系の構築が必要である。平成10年度においては、以上のことを踏まえて、計算化学による物性予測を併用しながら新たなホスト系の探索を行う予定である。なお、平成9年度における以上の成果の一部を論文としてまとめ、現在欧文誌に投稿中である。
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