前年の結果を踏まえて、反応性の高いアリルトリブチルスズを反応剤に、pro-nucleophileとして種々の活性メチレン・メチン化合物を用いてこの反応の汎用性を調べた。その結果、既に報告のあるPd触媒は活性メチンとは反応しにくいこと、電子求引性基としてニトリル基が必須であることの限界があったが、銅触媒を用いると活性メチンでも収率良くアリル化が進行し、活性化基として必ずしもニトリル基を必要としないことを明らかにし有用性を示した。特に活性メチレンに対してはアリル基が二つ入ったものが主生成物となり四級炭素構築法となりうることがわかった。また銅塩も1価だけではなく0価や2価のものを触媒として用い、反応の比較を行った結果、触媒としての銅塩は1価である必要はなく0個や2価でも反応条件はやや異なるものの同程度の収率で反応が進行することが明らかになった。この反応機構を明確にするため、ラジカル開始剤およびラジカル捕捉剤を添加した条件下での反応を行ってみたが、反応に影響は全くみられなかった。このことにより反応はラジカルを経由する機構ではないと考えられる。また触媒サイクルの酸化的付加で生じると考えられる不安定な3価の銅および水素化銅のスペクトルによる捕捉も試みたが成功には至ってない。しかし別途に高次アリル銅を調製し、メチルマロノニトリルと反応させてみると、収率は低いもののアリル化体が得られ予想している反応機構が正しいことを示せた。同時に有機銅の電子供与能を明らかにする実験も行い、その供与能を明らかにすることが出来た。不斉反応への応用も試みた。非対称の活性メチレン・活性メチンを用い、不斉配位子としてはじめ最も一般的なBINOL・BINAPを使用したが、まだ高い不斉収率は得られていない。不斉環境として超高圧下での反応も行ってみたが、不斉収率の向上には至らなかった。今後は不斉収率の向上を目指したい。
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