当初の研究計画に従い、ビシクロ[2.2.2]オクテンの縮環したシレピン類を出発物質として、ケイ素上の置換基、対アニオン、反応溶媒などの組み合わせを変えてシラトロピリウムイオン発生について検討した。この中で、真空脱気下ジクロロメタン中においてケイ素上にメシチル基を持つシレピン1を、-60℃でPh_3C^+B(C_6F_5)_<4^->と反応させNMRの測定を行ったところ、シラトロピリウムイオンに相当するスペクトルが得られた。 このシラトロピリウムイオンの^<29>SiNMRのシグナルは1と比べて約90ppm低磁場シフトしてδ49.8に1本観測されたが、ケイ素カチオン種としては高磁場側であり、これは溶媒の配位によるものと考えられる。^1HNMRではBCOの橋頭位水素のシグナルが1と比べて0.6〜1.1ppm低磁場シフトし、反磁性環電流の存在が示唆された。^<13>CNMRスペクトルもabinitio計算による予測と良好な一致を示した。また、abinitio計算の結果、溶媒の配位による安定化効果は存在するが、陽電荷は7員環部にも非局在化していることがわかった。 さらにこのシラトロピリウムイオンは昇温させると、溶媒であるジクロロメタンから塩素を引き抜いて、ジクロロシレピンを与えることが明かとなり、ここまでの結果では単離できるほど安定なシラトロピリウムの合成には至ってない。今後さらに置換基を工夫して単離可能なシラトロピリウムイオンの合成を試みる予定である。
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