シスプラチンは、現在最も広く臨床において使用されている抗ガン剤の一つであるが、患者への投与の際、腎臓・神経障害、嘔吐等の深刻な副作用が問題視されている。またシスプラチンの作用機序はDNAに対する共有結合生成に始まることが報告されている。以上のようなことから、シスプラチンにDNA認識・結合部位あるいは細胞膜透過性を付与した、より強い制ガン活性を発揮する化合物の探索が急務である。その一つとして、DNAに対するインターカレーター部位と白金錯体部位とを炭素鎖で結合した化合物が多く合成されている。 我々は今回、シスプラチンに適度なDNA親和性と配列特異性を持たせるため、アクリジンおよびフェニルキノリンとシスプラチンとを炭素1つで結合させた化合物を新たに合成し、その構造決定、細胞浸透性、DNAとの親和性、培養ガン細胞(HeLa cell)に対する細胞毒性並びにマウス移植腫瘍(P388 cell)に対する制ガン効果を検討した。その結果、アクリジン化合物におけるX線結晶構造解析によって、これらの錯体がシスプラチン型配位構造をとっていることが明らかとなった。また、アクリジン化合物に関して、HeLa細胞に対しては細胞毒性が認められなかったが、P388細胞に対してはマウスの延命効果が観測された。また逆に、フェニルキノリン体については、HeLa細胞に対する細胞毒性はシスプラチンのそれを上回り、in vitroでの顕著な活性を示したが、マウス移植のP388細胞に対してはほとんど効果を示さなかった。
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