研究概要 |
従来より、ポルフィリンの誘導体がその高い腫瘍集積性から光線力学的療法に用いられる薬剤として注目を集めている。光線力学的療法(Photodynamic Therapy,PDT)は癌の治療法の一種で、予め患者に腫瘍集積性のある光増感剤を投与した後、患部にレーザー光を照射して癌細胞だけを選択的に壊死させるという方法であり、この十数年間に優れたレーザー機器が開発され、優れた癌の治療法として注目されている。有機合成化学的にも、現在、ポルフィリンに水溶性を持たせた化合物が盛んに合成され、そのPDTへの応用が模索されている。以上のことから我々は、水溶性とともに細胞に対する認識力を持たせることを期待し、ポルフィリンに8つのグルコースを導入した化合物を合成し、すでに合成法が報告されている4つのグルコース、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース分子を含む化合物とともにその一重項酸素発生能および培養ガン細胞に対する光毒性について検討した。その結果、糖分子の種類および数によってその一重項酸素発生能はほとんど変化しないのに対し、HeLa cellに対する光毒性は大きく影響を受けることを見出した。特に3種の糖のうち水酸基がアセチル保護されたグルコースを4分子持つ誘導体は、他の糖分子を含む化合物に比べて10倍以上と特異的に強い光毒性を示した。今回の発見は、糖分子の種類・数・保護基の有無を適切に選択することにより、その光殺細胞効果を容易に制御することができることを示しています。 またテトラフェニルクロリンに糖分子を導入した化合物も合成し、糖部位の保護基の有無によるHeLa cellに対する光毒性の効果は、ポルフィリン誘導体の場合とは異なり、適度な親水性を持つ誘導体に高い活性が発現することを見出した。
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