研究概要 |
本年度は以下の3点について研究を推進した。 1.シアン橋架け3次元集積型錯体の構築と秩序磁性の発現 K_4[Fe(CN)_6]と[Ni(L)_3]X_2(L=ethylenediamine,trimethylenediamine;X=ClO_4^-,PF_6^-)を反応させて集積型錯体[Ni(L)][Fe(CN)_6]X_2を合成し、その結晶構造を決定した。[Fe(CN)_6]^<4->の6つのシアノ基は全て[Ni(L)_2]^<2+>の軸位に配位して3次元網目構造を形成していた。磁性面では、反磁性のFe(II)を介したNi(II)間の強磁性的相互作用を確認した。この相互作用はPrussian Blue類縁体の二次的相互作用に相当し、これらの集合体の磁気相転移プロセスを考察するうえで重要な知見を与えた。この成果をInorganic Chemistryに投稿し、現在公開準備中である。 2.新規集積型錯体の合成 既に構造を決定していた1次元ジグザグ鎖状錯体PPh_4[Ni(pn)_2][Fe(CN)_6](PPh_4^+=tetraphenyl-phosphonium cation;pn=1,2-propanediamine)の類縁体 PPh_4[Ni(pn)_2][Fe(CN)_6](M=Co^<3+>,Cr^<3+>)を合成し、その結晶構造を決定した。全ての錯体は異質同像体であった。磁気的挙動の解析から、M(III)とNi(II)間に働く磁気的相互作用の違いをM(III)の磁気軌道を考慮して解釈した。異質同像体の関係にある集積型錯体を系統的に合成し、磁気的考察を行うことのできた希少な例である。この成果をInorganic Chemistryに投稿し、現在公開準備中である。 3.シアン橋架け2次元シート型集合系錯体のシート間構造の制御 2次元シート構造を有する[Ni(L)_2]_2[Fe(CN)_6]X(L=1,1-dimethylethylenediamine;X=counter anion)の対イオンX^-によるシート間距離の制御を検討した。Xにp-toluenesulfonic acidやp-methylbenzoic acidを用いることで、シート間距離をca.15Åまで伸ばした結果、シート間の反強磁性的相互作用の消失した2次元強磁性体を得た。今後はXにp-phenylbenzoic acidなど更に長い棒状分子や陰イオン性有機ラジカルを用いて、シート間相互作用と集合物性の相関関係を系統的に研究する。
|