筆者は三脚型4座配位子であるtris(2-pyridylmethyl)amine(TPA)を有するルテニウム錯体に関して、その金属中心に対して配位子の立体的効果なく電子的効果を誘起させるために多種の新規TPA誘導体を設計合成し、それらを有するルテニウム(III)単核錯体を合成した。合成された配位子のうち、ピリジン環の5位の1つにジメチルアミド基を有するもの、3つの5位にメチル基を有するもの、1つ又は2つの4位にそれぞれエトキシカルボニル基を有するもの、そして無置換のものについては純粋な錯体を単離し、それらのRu(III)/Ru(IV)の酸化還元電位が極めて忠実にハメット則に従うことを示した。このことはルテニウム錯体のHOMOのレベルが配位子の電子的効果によって明確に制御されていることを示すものである。さらに、その中で[RuCl_2(5-CONMe_2-TPA)]ClO^4のX線結晶構造解析を行い、その構造を明らかにした。これらのことは、今後TPA配位子の電子的効果によるルテニウム錯体の反応性のファインチューニングを行うための重要な基盤を与えるものである。 一方、π-π相互作用をその認識要因とする分子認識部位として、2つのピリジン環の6位にそれぞれ1-ナフトイルアミド基を導入したTPA誘導体((1-Naph)_2-TPA)を配位子とするRu(II)単核錯体([RuCl((1-Naph)_2-TPA)]PF_6の合成を行い、その構造をX線結晶解析により明らかにした。その結果、ルテニウム中心からのπ-逆供与を伴う配位子の1つのアミドC=Oの配位、分子内π-πスタッキングなど非常に興味深い構造的特徴を有することが明らかとなった。また、この錯体は、可逆なRu(II)/Ru(III)の酸化還元挙動を示し、酸化還元をスイッチとするまったく新しい酸化還元活性分子認識素子としての反応挙動が期待される。
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