非ヘムニ核鉄酵素であるメタンモノオキシゲナーゼおよび非ヘム単核鉄酵素であるリポキシゲナーゼは共に酸素分子を活性化し、基質に酸素原子を添加する酵素である。現在考えられているメタンモノオキシゲナーゼの触媒サイクルは、還元体が酸素と反応し、ペルオキソ体となり、短時間のうちに高原子価中間体(Qと略)となり、それが基質を酸化し酸化体になり、最後に2電子還元されて再び還元体に戻るというものである。これらの中で、ペルオキソ体とQの構造および電子状態は、まだ正確には解明されていない。本研究では、ペルオキソ体のモデル錯体を溶媒マトリックス中(-100℃付近)に閉じ込め、光エネルギー(レーザー光)を照射し、酸素一酸素結合の解離(即ち、高原子価中間体Qの生成)を試みたが、結果は鉄一酸素結合の解離に終わった。そこで、本研究では転じて、リポキシゲナーゼの反応中間体の構造と性質について検討した。その結果、リポキシゲナーゼの反応中間体のモデル錯体として単核6座配位ヒドロキソ鉄錯体を合成し、その結晶構造を明らかにした。その錯体は、X線構造解析されたはじめての単核6座配位ヒドロキソ鉄錯体である。x線構造解析より、鉄イオンへのヒドロキソイオンの配位はリガンドのアミド及びペンゾエートによる4つの水素結合によって安定化されていることが明らかとなった。このことより、実際の酵素(リポキシゲナーゼ)のヒドロキソ鉄状態においても、同様の(イソロイシン939の末端のカルボニル基とヒドロキソ基の間の)水素結合の存在が示唆できた。
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