生体内のヘム酵素は、活性中心にヘムを共通にもつが、活性中心のヘムが担う機能は多種多様である。ヘム酵素がもつ機能の多様性は、ヘムに配位する軸配位子やヘム周辺のタンパク質の作る反応場によると考えられているが、詳細は明らかでない。本研究では、生体内のベルオキシダーゼ、カタラーゼ、サトクロームP-450などのヘム酵素の軸配位子が、その酵素機能をどのように制御しているかをモデル錯体により研究した。本課題による主な成果はつぎの通りである。 1. これらのヘム酵素は、その反応中にCompound Iと呼ばれる反応中間体を生成するが、その寿命が短いため酵素を用いた詳細な研究は困難である。そこで本研究では、これら酵素と同様な軸配位子をもつCompound Iモデル錯体の合成し、軸配位子の役割りを明らかにした。軸配位子を導入するため、対イオンに過塩素酸イオンを用いること、酸化剤にオゾンを用いることにより、ベルオキシダーゼ由来のイミダゾール基とカタラーゼ由来のフェノール基をもつCompound Iモデル錯体の合成に初めて成功した。 2. 合成したCompound Iモデル錯体の吸収スペクトルを測定した。軸配位子を導入したCompound Iモデル錯体は、軸配位子をもたない錯体に比べ吸収ピークが長波長側にシフトした。この変化を軸配位子の塩基性と比較すると、塩基性が大きくなるに従い、長波長側に変化することが明らかとなった。この結果は、Compound Iの吸収ピークが酵素により大きく異なるのは、軸配位子の塩基性の違いによることを示唆した。また逆に、Compound Iの吸収位置は、軸配位子からヘム鉄への電子供与の大きさをを反映することを示した。
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