1.鉄錯体及びNO錯体の電子状態・構造に関する研究:2の反応機構の解明にも関連するが、水溶性を有する数種類のジチオカルバメート鉄錯体の酸化還元電位を測定したところ、鉄3価/鉄4価の電位が+300mV程度と他の鉄錯体と比較して非常に低いことが判明した。電位と錯体の反応性、安定性との関連は今後の課題である。 2.NO錯体の生成・分解機構に関する研究:昨年度までの研究で、鉄3価ジチオカルバメート錯体とNOとの反応が既知の還元二トロシル化反応とは異なるメカニズムで起こっていることが示唆されていた。そこで、この反応機構の詳細を明らかにするために、生成物の解析を高速液体クロマトグラフィー、エレクトロスプレーイオン化質量分析により行ったところ、鉄3価錯体と一酸化窒素との反応の生成物は鉄2価二トロシル錯体と配位子がジスルフィド結合により二量体化したものであることが分かった。これらの結果は、一酸化窒素の配位により鉄錯体の酸化還元電位が正にシフトし、未反応の錯体からの電子供与を受けて還元され、一方電子供与した錯体は鉄4価中間体となり、この鉄4価錯体と脱離した配位子との反応で配位子のジスルフィド2量体が形成される、という反応モデルで最も良く説明された。つまり、本系では一酸化窒素の配位がトリガーとなり錯体間電子移動が誘起される新規な反応場が実現していることが示唆された。反応機構の解明により得られた知見は、生体内で問題となっている鉄一硫黄蛋白質の一酸化窒素による機能制御の反応モデルとして有用である。 3.銅錯体への展開:現在、上記の知見をふまえて銅錯体への展開を図っている。
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