本研究では、スピン多重度の異なる2種類のラジカル分子間に強い反強磁性的な相互作用をもたせることで、巨視的な磁気秩序状態を与えるフェリ磁性体を有機ラジカルのみで構築し、より高い転移点を有する有機磁性体の作成を目標としている。 平成9年度は選択的に異種分子を集合化させる、いわゆるCocrystallizationの技術を確立すべく、「分子間水素結合型」による錯体形成を試みた。まず水素供与性の置換基としてカルボキシル基を、水素受容性の置換基としてピリジン環を、安定ラジカルであるニトロニルニトロキシドの置換基の一部として導入することとし、パラカルボキシフェニルニトロニルニトロキシド(HNNBA)と(メタあるいはパラ)ピリジルニトロニルニトロキシド(PYNN)との錯形成を検討した。等量のアセトン溶液を冷所で徐々に濃縮していくことにより、2つの組み合わせのどちらにおいても良質な結晶が得られた。赤外吸収スペクトルあるいは元素分析により、分別再結晶ではなく錯形成していることが確認された。また単結晶X線構造解析により、当初の設計どおりカルボキシル基の水酸基とピリジン環の窒素との間で強い分子間水素結合が形成されていることが認められた。 このように酸と塩基という強い水素結合を形成する組み合わせでは例外無く1対1の錯体の作成に成功している。まだまだ一部の置換基の組み合わせでしかないが、Cocrystallizationの技術の確立に道筋がついたものと言えよう。磁気的相互作用についてはいずれも弱い反強磁性的相互作用が働くことという結果が得られたが、強磁性的にせよ反強磁性的にせよ、より大きな相互作用を導入すべく、今後の結晶設計を進めていく必要がある。
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