研究概要 |
本研究は、金属カルコゲン化物の新規合成法を検討し、その結果生成する特殊構造をもつ物質、あるいは優れた特性を有する材料の創製を目的としている。本年度は特に金属カルコゲン化物合成の前駆体となりうる希土類(Ln)-硫黄(S)結合を持つ錯体を新規合成した。それらの構造と発光特性を調べることにより、これまでほとんど知られていないLn-S結合の光物性的特徴について検討した。またこれら錯体を原料として熱分解反応を行い、熱安定性の高い青色蛍光体として最近注目されている希土類ドープ金属チオガレート蛍光体を合成し、その発光特性を評価した。 Ln-S結合をもつ錯体として[PPh_4][Eu{S_2P(OEt)_2}_4],Na[Eu(S_2(NMe_2)_4].4H_2O,[NMe_4][Eu(SCOEt)_4]などを合成しX線構造解析を行った。いずれの化合物もEuの周囲には8個のS原子が十二面体型に配位し、配位子場はD_<2d>対称に近似された。4〜300Kで発光特性を調べた。いずれの化合物も紫外光照射により低温でEu^<3+>のf→f遷移による発光が見られた。発光強度は温度上昇と共に著しく減少し、強い温度依存性をもつ何らかの失活過程の存在が明らかとなった。励起スペクトルは4f軌道間遷移による鋭いバンドとS→EuLMCTによる幅広いバンドからなる。特に注目すべき事は発光・励起スペクトルに見られるそれぞれ^5D_0→^7F_0,^7F_0→^5D_0の遷移には多数のサイドバンドが存在することである。^5D_0→^7F_0,^7F_0→^5D_0遷移とサイドバンドとのエネルギー差はS_2P(OEt)_2,S_2CNMe_2,SCOEt配位子のIRスペクトルとよく一致した。このことから配位子の振動レベルが^5D_0状態とフォノンカップリングしたものと考えられる。これらのフォノンサイドバンドの強度はO原子を配位子とした場合に比べて異常に強く、重原子であるSを配位子とした場合に特徴的に現われることが明確となった。 次に今回得られた錯体の一つである[NMe_4][M(S_2CNMe_2)_4]、およびMH_2(M=Ca^<2+>,Sr^<2+>,Ba^<2+>),Ca[S_2CNMe_2]_3S単体の混合物を熱分解することにより、一段階で金属チオガレート青色蛍光体を合成できることを見いだし、熱分解条件、組成等が最適化された。この結果得られた蛍光体は商品化されているSilvania製青色蛍光体をしのぐ高い発光強度が実現した。
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