EuSeは、0.1T程度の低磁場で抵抗率が何桁も減少する巨大磁気抵抗(GiantMagnetoResistance;GMR)が発現するなど、磁性と伝導性が協奏する系としての興味が持たれている。このGMR発現のメカニズムについては、無機、および無機・有機複合系も含めて未だ理論的な解釈が確立されていない。本研究では、EuSeを始めとして様々な磁性を含む希土類と、金属・半金属・半導体からなる二元金属エピタキシャル多層膜及び二元金属間化合物を創出し、その電子構造を明らかにすることを行った。得られた試料についてSQUID磁束計を用いた磁化率の測定を行ったところ、磁性Eu原子層間距離を固定し、スペーサー層となるSe膜厚を任意に変化させることにより、メタ磁性転移磁場が大きく減少することが分かった。また磁化の異方性エネルギーの膜厚依存性の結果からは、膜厚が大きくなるほどEu間の相互作用が小さくなるものの、磁気抵抗の値も減少し、この系の電気的・磁気的物性が単にEu原子に起因するものではないことが示唆された。EuSeの磁性測定結果を説明する目的で、spinを区別したDV-Xα分子軌道法を用いて、MBE超格子膜の電子状態を調べた。これらの計算には本学所有のワークステーションを利用した。Eu/Se系の伝導に関与するFermi準位付近のcharacterを調べたところ、伝導には主としてEu4f電子がspinに関与するものの、わずかに5d軌道電子が存在し、RKKY相互作用によって磁性・伝導の両方に関与する可能性があることが示唆された。このことは、無機・有機複合電子系で活発に進められている「d-π系」におけるDV-Xα分子軌道計算からも同様の結果を得ており、EuSe系の電子状態の議論がd-π系などでの電子構造を説明するモデルに十分なり得るものと考えられる。
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