α′-(BEDT-TTF)_2IBr_2の赤外偏光反射スペクトルの測定 α′-(BEDT-TTF)_2IBr_2は室温から低温まで半導体的な伝導性を示す導電性有機結晶で、200K付近のBEDT-TTF分子の二量体化に関連した構造相転移と60Kの磁気的な相転移が起こることが報告されている。この相転移に関する知見を得るために、顕微FT-IRを用いて、単結晶のab面の偏光反射スペクトルの温度依存性(300K>T>9K)を測定した。その結果、結晶の短軸方向(E//a)の1500cm^<-1>より低波数領域で、スペクトルが温度に依存して変化することが明らかとなった。特に、700-1100cm^<-1>領域の分散は、210Kまでははっきり見えないが、180Kで強く現れており、210Kと180Kの間でスペクトルに明らかな変化が見られた。これは、構造相転移温度200Kと対応しており、ET分子の二量体化に伴う構造相転移と関係していると考えられる。これらの180Kで強く現れた分散は、温度の低下に伴って弱くなっていき、30Kのスペクトルの形状は転移前の210Kとほぼ同一となっている。また、1400cm^<-1>付近の強い分散には温度に依存した小さなシフトが見られた。はじめに、300Kの1403cm^<-1>から徐々に低波数にシフトしていき、180Kで1398cm^<-1>となり、90Kまでほぼ一定である。次に、高波数にシフトし、60Kで1400cm^<-1>となり、9Kまで一定であった。なお、今回の測定では、磁気的相転移の60K付近での顕著な変化は観察されなかった。 この相転移に関しては、低温での精密構造解析からBEDT-TTF分子の二量体化とBEDT-TTFのカラム間での電荷分離の関連が示唆されており、このことを確かめるために、現在行っている長軸方向の反射スペクトルと合わせて、赤外ラマンスペクトルの測定を計画している。
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