外場(特に磁場)応答性を有する新しい型の複合系誘電体を得る目的で、本研究では、電子機能性を担う電子供与体と特徴ある対イオンを組みあわせた錯体結晶の構築を試みた。本年度は昨年度に引き続き、まずTTFおよびフェロセンのカルボン酸誘導体とそのリン酸塩の合成の試みをおこなった。さらに、同様に磁性と誘電応答が共存する可能性のある系として、TTF誘導体と種々の電子受容体との錯体を合成し、それらの構造・磁性に関して系統的に検討をおこなった。 まず、カルボキシル基とTTF骨格との間にメチレンおよびチオメチレンを導入した化合物を対照として合成を試みた。その結果、前駆体であるアミド体の合成まで至っているが、その加水分解によりカルボン酸を得る反応が困難であることが判明した。また、フェロセンカルボン酸およびジカルボン酸を合成し、リン酸塩を電解質として種々の条件下で電解結晶化を試みた。その結果、電解合成によって黒色固体が得られることが判明した。但し、得られた固体は結晶性がきわめて悪いことが明らかとなった。 一方、磁性・誘電性の双方の観点から興味がもたれる系として、TTF誘導体と有機アクセプターとの種々の組みあわせについて検討した。その結果、BEDTおよびBEDSe-TTF誘導体と、フッ素置換TCNQの組み合わせにおいて交互積層錯体が実現し、それらが反強磁性を示すことが明らかとなった。このような系において分子の弱い2量化が生じた場合には、誘電応答を示すことが知られているため、磁性と誘電性の競合が出現しうると予想される。これらの知見を元に、現在より分子間相互作用の強い(平面性の強い)化合物について検討を継続中である。
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