研究概要 |
市販のSQUID磁束計に取り付け可能な、TiCu合金性の小型のクランプ式圧力セルを開発した。セル自身の磁化は極めて小さく、また再現性もよい。これを用いて、2つの有機ラジカル、ガルビノキシルとF_5PNNの構造転移に対する加圧効果を研究した。これらの化合物は、いずれも室温ではユニフォームな鎖状構造を有するが、低温で二量化を起こす。本研究では、この構造転移がそれぞれ7kbar,5kbarの加圧によって抑制されることを発見した。特にガルビノキシルについては、圧力依存性の実験から、加圧効果の機構について考察し、転移のポテンシャルバリアーが加圧によって増大し、高温相が準安定状態(過冷却状態)として、低温まで保持されることを明らかにした。さらに^3He冷凍機を用いて、7kbarの加圧下のガルビノキシルの物性を交流磁化率・比熱から詳しく調べた。その結果、この物質が2J/k_B=25Kの一次元ハイゼンベルグ強磁性体として振る舞うこと、さらに鎖間反強磁性相互作用により、0.72Kで反強磁性相転移を起こすことを見出した。一方、F_5PNNの常圧下の物性を、^3He冷凍機と9tesla超伝導マグネットを用いて詳しく調べた。その結果、この物質の二量化は不完全で、交互比0.4であることを明らかにした。通常のスピンパイエルス転移が完全な二量化を伴うのに対し、極めて珍しい例となった。引き続き次年度、F_5PNNの加圧下での物性について詳しい実験を行い、転移の性質と加圧効果の機構を明らかにしていく予定である。
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