アルカロイド、ペプチド、β-ラクタムをはじめとする含窒素化合物の中には、有用な生理活性を有するものが多く、天然にも数多く存在する。その多くは光学活性化合物であり、これらの化合物の合成には光学活性アミノ化合物が有用な中間体となる。本申請者はアリルスズのアルデヒドおよびイミンへの付加反応が、パラジウム及び白金触媒下で進行することを既に見い出しており、その反応活性中間体が求核的ビス-π-アリルパラジウムであることを明かにしている。 本研究では、この求核的性質を持つビス-π-アリルパラジウム錯体の一方に不斉源として、ピネン由来のπ-アリル基を導入することにより、これまで困難であったイミンへの触媒的不斉アリル化反応に初めて成功した。この反応に於いてビス-π-アリルパラジウム錯体の不斉アリル基は、イミンとは反応せず、パラジウム上に固定されており、一方のアリル基のみが反応に関与し、求核的にイミンに対し、反応していることが分かった。このように、求核的性質を持つビス-π-アリルパラジウム錯体の非対称なアリル基の反応性を制御し、その一方のアリル基にイミンの不斉面の認識をさせることにより、光学活性なアミン化合物の選択的不斉合成が可能となった。従来、様々な不斉配位子が開発されてきたが、本研究のように、π-アリル基を不済配位子に持つ触媒反応は、これが初めての例である。
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