研究概要 |
リン酸イオンやカルボン酸イオンなど,アニオンの多くは生体系において重要な役割を果していることから,その定量は医学的・生物学的に重要である。従って,生体関連アニオンの高感度な分析法の開発が注目されており,既にいくつかの蛍光試薬によるアニオン蛍光分析が報告されている。しかし,既存のアニオン蛍光プローブの殆どはアニオンとの消光作用に基づくものであり,感度の向上および選択性のコントロールは期待し難い。 本研究では,分子認識に立脚した新規アニオン蛍光試薬の開発を目的として,錯形成部位としてチオ尿素基,蛍光発色団としてピレニル基から構成される化合物を新規合成し,有機溶媒中におけるアニオンとの錯形成能および錯形成に伴う蛍光特性変化について検討した。本年度の研究成果を要約すると以下のようになる。 1.ピレン環にチオ尿素基を直接導入したN-methyl-N'-(1-pyrenyl)thioureaが、アセトニトリル中においてCH_3CO_<2->と選択的に1:1錯体を形成することにより、400nm付近の発光帯に加え、その長波長側に新たな発光帯を示すことを見出した〔Anal.Sci.,13S,485(1997)〕。 2.ピレン環とチオ尿素基間にメチレン基をスペーサーとして導入したN-methyl-N'-(1-methylpyrenyl)thioureaが、CH_3CO_<2->やH_2PO_<4->と水素結合を介して錯形成することによりモノマー蛍光が著しく消光され、また、消光に伴い長波長側のCT性発光が顕著になることを見出した。 以上、従来の蛍光試薬の殆どが単にアニオンとの消光作用に因っているのとは全く異なり、アニオン認識に基づく新規蛍光のプローブの開発に成功した。
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