研究概要 |
本研究では,生体関連アニオンに対する新規蛍光プローブの開発を目的として以下の研究を行った。 PET(photoinduced electron transfer)センサーの新たな展開として,分子内エキサイプレックス(EX)形成制御に基づく新規蛍光プローブの開発を試みた。アニオン認識部位としてチオ尿素基を有するピレン誘導体を新規合成し,有機溶媒中における錯形成能を評価した。その結果,CH_3'CO_2^-やH_2PO_4^-等と水素結合を介して1:1錯体を形成することにより,モノマー蛍光が著しく消光し,その長波長側にEX発光を与えることを明らかにした。従って,アニオンとの錯形成をEX/モノマー発光強度比の変化によりモニターすることが可能であり,また,EX発光のλ_<max>はアニオン種に依存する。分析試薬として有用な,これらのスペクトル応答は,従来のPETセンサーでは殆ど達成し得なかったものであり,分子内EX発光を利用したイオンセンシングの優れた可能性を示唆している。 自己集合体形成に基づく新規蛍光プローブの開発を試みた。アニオン認識部位としてグアニジニウム基を有するビレン誘導体を新規合成し,メタノール中における錯形成能を評価した。その結果,ピロリン酸イオン(PPi)との2:1錯体形成を,モノマー/エキシマー発光強度比変化として検出可能であることを明らかにした。すなわち,PPi添加に伴い,モノマー発光は消光し,その長波長側に顕著なエキシマー発光が見られる。このような蛍光スペクトル応答は,他のアニオン(H_2PO_4^--,CH_3CO_2^-,Cl^-,Br^-)では全く見られず,PPiに対して高選択的である。 以上,従来の蛍光試薬の殆どが単にアニオンとの消光作用や蛍光物質への誘導体化に基づいているのとは全く異なり,エキシマーあるいはエキサイプレックス発光を利用することにより,新しい情報変換モードに基づくアニオン認識蛍光プローブを開発することに成功した。
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