誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は、高感度な方法ではあるが、固体試料のようなマトリックス成分の多い試料を測定する場合、一度溶液化した後、イオン化部へ導入しなければならない。しかも、共存する多量のイオンも同時に質量分析装置に導入される場合、干渉によってシグナル強度が著しく減少する、あるいはメモリー効果があることが問題となっている。本法では、溶液試料の導入法としてその有用性を確立したメタル炉加熱気化導入法を、ICP-MSのための固体試料の直接導入法としてさらに発展させた。 通常の加熱気化法で用いられるタングステン製メタル炉の上に、タングステン製のサンプルキュベットを乗せ、いわば「2枚重ね」の形で間接的に資料を加熱できるようにした。まず、このキュベットの上に数ミリグラムの固体試料を秤量した。試料分解試薬や化学修飾剤も同時に添加した後、これをメタル炉上に密着させ、徐々に温度を上昇させながら試料をキュベット上で灰化分解し、有機物をあらかじめ揮散させた。同時に目的元素の気化段階における化学種も同一に揃えた。最後に約2500℃に急速に加熱することによって、目的元素をオンラインでICPへ導入し、得られたイオン強度のピーク面積から定量した。 目的元素としてカドミニウムを選び、固体試料としてNISTの植物標準試料を取り上げて、試料を短時間に、しかも炉上で完全に分解灰化するための条件検討を行った。試料中に含まれる有機物を分解するための試薬としてテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドが有効であった。さらに、リン酸水素二アンモニウムを混合することによって、カドミニウムは気化温度の高いリン酸塩を形成し、灰化温度をさらに高い温度に設定することができた。本法によって環境試料中の微量カドミニウムの直接定量を行い、保証値とよく一致した結果が得られた。
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