自然水中における未知なる有機ヒ素フラクション“hidden arsenic species"の存在を明らかにするために、一次生産性の高い琵琶湖、高知県浦ノ内湾におけるヒ素化学種の濃度分布と季節変化を観測した。本研究では、自然水試料にも適用できる全ヒ素測定法としてマイクロウェーブ法を新たに開発し、従来法である紫外線照射法、還元気化原子吸収法と組み合わせて、“hidden arsenic species"の分画法を開発した。同法をフィールド観測に適用したところ、自然水中の有機ヒ素は各種紫外線に対する安定性によって分画できることが分かった。また、試料水中のヒ素を高分解能-高周波アルゴンプラズマ質量分析計(HR-ICP-MS)によって直接定量した値は全ヒ素濃度と一致したことから、液体クロマトグラフィーによって自然水中の有機ヒ素を分離定量する際には検出器としてICP-MSが使用できることが分かった。 フィールド観測では、琵琶湖及び浦ノ内湾表層水における全ヒ素濃度は、これまで主溶存種とされてきた無機ヒ素。メチルヒ素濃度の和よりも1.1〜2.5倍大きく、自然水中に“hidden arsenic species"が高い割合で存在していることを見いだした。また、海水、淡水試料ともに“hidden arsenic species"の画分は未ろ過水の方がろ過水よりも大きく、自然水中の有機ヒ素の循環において粒子態-溶存態間の物質移動を特に考慮する必要があることが分かった。ヒ素化学種の季節推移では、“hidden arsenic species"の割合は生物生産が活発になる6月に特に高くなったことから、“hidden arsenic species"は生物中で見いだされている高分子有機ヒ素化合物が自然水中の溶存メチルヒ素に変換される際の中間化合物であると考えられる。
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