研究概要 |
「ミトコンドリアDNA(mtDNA)の母性遺伝」の真偽追求と機構解明を目的とし,マウス初期胚・個体を材料に用いて解析を行ってきた.これまでの知見から,卵細胞質内には精子ミトコンドリアに対する排除機構が存在し,その機構は精子mtDNAを認識するものではないことを明らかにした.また,mtDNAの母性遺伝は,初期発生の前核期から2細胞期の間に精子ミトコンドリアが排除されることが原因で起こり,同種間交雑では厳密に母性遺伝されることを検証した.さらに,受精後の精子ミトコンドリアの動態を電子顕微鏡で観察したところ,ミトコンドリアの形態異常と破壊が確認できた.このミトコンドリアの形態的変化は,他の動物種による観察と類似している,ミトコンドリアの崩壊を示唆している.また,精子mtDNAが消失した時期と一致していることから,精子ミトコンドリアに対する排除機構の存在を裏付けるものとなった.また,排除機構が前核期に特異的に働くのか,また受精により侵入した単一精子に対してのみ働くのかを追究すべく実験を行った.これらの排除能力を明らかにするために,同種間交雑胚内(前核期・2細胞期胚)へ異種精子の尾部を顕微注入させ,その外来精子mtDNAが発生後に排除されるか否かをPCR法で確認した.その結果,前核期の細胞質内へ尾部を注入し,培養後の2細胞期で外来精子mtDNAが検出できたものは10.0%であった.また,2細胞期内へ注入し,培養後の4細胞期および8細胞期で外来精子mtDNAが検出できたものは,それぞれ17.5%,17.9%であった.以上の結果は,精子ミトコンドリアに対する排除機構が前核期特異的な機構ではないこと,また受精により侵入した精子にのみ働くものではないことを示している.
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