【本研究の目的】 岩礁潮間帯では地形構造決定を通して地質が生物群集構造と多種共存機構に及ぼす影響を調べた研究はまったくない。そこで、北海道南部で卓越する地質系統である火山岩(粗粒玄武岩)と火山細犀岩からなる岩礁海岸の潮間帯中部(ムラサキインコガイ帯)を調査群集とし、地質の違いに対応して地形構造と群集構造は異なるか(目的1)、地質の違いが群集形成作用にどのように影響するか(目的2)、地質の異なる岩礁海岸で固着生物群集の多種共存メカニズムはどのように異なるか(目的3)、を明かにすることが本研究の目的である。 【平成9年度の研究実績】 1.北海道南部の海岸域で火山岩の海岸を5海岸、火山細犀岩の海岸を6海岸を調査地に選定した。 2.(目的1)のために、1-10cmスケール、1-10cmスケールでの地形の複雑さを分散分析で比較した結果、火山岩海岸は、火山細犀岩海岸に比べ、両スケースルでも地形の複雑性が大きいことが明らかになった。 3.(目的1)のために、固着ベントス、グレーザー、肉食者の種別現存量を分散分析で比較した結果、火山細犀岩海岸は、火山岩海岸に比べ、固着ベントスの被度は大きいのに対し、固着ベントスを餌とする肉食性巻貝の生物量は小さく、また、海岸当り総出現種数は少ないことが明らかになった。 4.(目的2)のために、1997年5月に各海岸に人工撹乱パッチを5つ作成し、撹乱パッチ内での群集の経月変化の調査を開始した。作成後1997年3月までの撹乱パッチ内の遷移過程は、海岸間で大きく変異したが、分散分析の結果、火山細犀岩海岸と火山岩海岸間では、有為な遷移過程の差は検出されなかった。 5.(目的2)のために、地質以外の大空間スケール群集形成要因である海域生産性(植物プランクトン量、栄養塩量)を分散分析で比較した結果、海岸間で差があることが明らかになった。また海域生産性は、地質構造とともに作成後1997年3月までの撹乱パッチ内の遷移過程に影響することがステップワイズ回帰分析から明らかになった。
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