研究概要 |
大気二酸化炭素(CO2)濃度は地球誕生以来常に変化し、最終氷期に最低値をとった後、最近は主に人間活動の影響で上昇を続けている。最も楽観的なシナリオをもとにしたシミュレーション結果でさえ、来世紀中に現在の1.5倍の濃度になるとしている。こうした大気CO2濃度の変化に伴って、植物はその生理・形態的性質を変化させてきたと推測される。 本年度は、前年度に構築した廉価版装置を用いて、生育型の異なる4種のブナ科木本植物に230ppm(産業革命前,LC)、360ppm(現在,PC)、450ppm(21世紀,HC)の3種類の濃度のCO2曝露実験を行い、光合成活性の解析を行った。 腐葉土の分解により放出されるC02を利用し、低CO2濃度制御にはソーダ石灰を用いた。 また暴露装置(Open Top Chamber)は圃場に温室資材を用いて構築した。暴露装置の性能については、前年同様、CO2濃度・温度制御ともに良好な結果が得られた。 ブナ科の落葉樹(クヌギ、コナラ)では、3つの曝露CO2濃度の間で光合成活性の差がみらなかった。一方、同じ科の常緑樹(マテバシイ、シラカシ)では、特に低CO2濃度(LC)において顕著な光合成活性の低下が認められた。これらの結果は、前年度に得られた生長反応の結果と整合性がある。すなわち、LCにおいて顕著な光合成活性の低下が認められた常緑樹では、生長も抑制されたが、光合成活性の低下が認められなかった落葉樹では、生長抑制もない。またこうした生育型間の反応性の差違は、葉の内部構造の違いに起因することが示唆された。すなわち、落葉樹では、LCにおいて葉の内部の空隙率が増大することによりガス交換効率が向上し、その結果光合成活性の低下を免れたと考えられる。常緑樹では、このような形態変化が認められなかった。以上より、陸上植物はその育型によってC02反応が類型化される、という仮説の裏付け根拠がーつ追加された。
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