研究概要 |
チクシトゲアリ(Polyrhachis moesta)は樹上性のアリで、秋に結婚飛行を行い、交尾して翅を落とした女王が枯れ枝中の空洞で越冬し、翌春産卵を開始し巣を創設する。その際、50%近くの巣が複数の女王で構成される。それら女王間に血縁関係のないことが、DNAフィンガープリントにより確かめられている(Sasaki et al,1996)。女王間には餌交換行動や共同育児といった協力行動がみられる。しかし、成熟した巣は多くの場合単女王であることから、多雌創設巣の女王は巣の成熟過程で一個体をのぞき除去されるか、あるいは別の場所へ分かれていくと考えられる。多雌女王のうち単女王となる個体はどのような個体か、また単女王への移行はどのように進行するかなどについて調べるために、個体の行動や産卵数などを比較検討した。その結果、女王の体サイズ、生体重には単雌、多雌創設に関わらず優意差はないことが分かった。創設女王数の頻度分布がポアソン分布の期待値と一致していたことと考え合わせると、創設女王は個体の体サイズやボディコンディションに関係なくランダムに出合ったものどうしで多雌創設巣を形成していることが示唆される。一方、多雌創設巣の女王は、単雌創設巣の女王よりも早く産卵を開始し、ワーカーを育て上げられることが分かった。社会性昆虫では一般に創設期における死亡率が最も高く、より早くワーカーを生産し餌資源を集めることが重要である。この転で多雌創設は有利といえる。ただし、多雌創設の女王は全てがそのコロニーの女王としては残れず、次第に数が減少していくので、トレードオフが生じ、全ての女王が多雌創設を行うように淘汰圧が働いていないのではないかと考えられる。今後はより詳細な野外調査、飼育実験によりその点を明らかにしていく必要がある。
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