温暖化が高山植物の成長特性にどのような影響を及ぼすのかを予測するため、オープン・トップ・チャンバー(OTC)を用いた野外実験を、1997年度から1998年度まで、富山県立山山地・浄土山〜竜王岳にかけての高山帯(標高約2700m)で行った。本研究においては、常緑性矮小木本・ガンコウラン(Empetrum nigrum var.japonicum)とミネズオウ(Loiseleuria procumbens)及び落葉性矮小木本・チンダルマ(Sieversia pentapetala)を対象材料とした。OTC処理により地上約5cmでの温度はOTC外の温度に比べ、約2°C上昇した。ハイマツに囲まれた平坦地で雪解けの早い調査地1では、草本植物が少なく、ガンコウランとミネズオウが高い割合で生育していた。約二年間の温暖化処理により、シュート当りの葉の枚数・シュート伸長量・シュート重量(葉重量+枝重量)が、ガンコウランとミネズオウ両種ともに増加したが、その反応はガンコウランでより顕著であった。ガンコウランは上方の伸長成長が著しく、そのため小さいスケールではあるがミネズオウを下層にした階層構造が形成されていた。葉の窒素濃度は両種とも温暖化処理により減少した。風衝地からやや離れた東斜面上に設定した調査地2では、ガンコウランとミネズオウよりもハクサンイチゲ・タカネウスユキソウ・ネバリノギランなどの草本植物が優占していた。調査地1とは対称的に、OTCによる温暖化処理によってガンコウランとミネズオウともに物質生産性が低下し、葉の窒素濃度は増加する現象がみられた。OTCによる温暖化効果は木本植物よりも草本植物でより顕著で、そのためガンコウランとミネズオウは被圧された結果、生産性の低下や葉中の窒素濃度の増加が生じたものと考えられる。多くの種が共存している自然植生においては、温暖化による影響は各種類によって異なり、競争関係の変化を通じて植物の群落構造が変化するものと予想される。 調査地2において調査したチングルマでは、OTCによる温暖化処理によって花の性表現が変化し、オス器官よりもメス器官への物質分配が増加し、その種子の生産性も増加した。以上のように温暖化は成長特性だけでなく、繁殖特性にも大きな影響を及ぼすものと考えられ、今後より詳しい調査が必要である。
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