本年度は主に、ヤマグワ上で繁殖するヒメツノカメムシの雌雄に野外で働く性・自然選択の分析を行った。 雌に働く自然選択:本種の繁殖に関わる形質(随伴期間、卵塊当り卵数、産卵開始時期、産卵場所に関する形質)に働く自然選択を、野外のヤマグワ上で雌親を個体毎に追跡調査して明かにした。調査した雌57頭の繁殖成功(2令の生存幼虫数)は、平均36.9+-14.6だった。方向性選択差を求めたところ、卵塊当り卵数と随伴期間に正の有意な値が検出された。選択勾配モデル全体の寄与率は0.643とかなり高く、選択差同様に卵塊当り卵数と随伴期間には正の、また産卵開始時期には負の有意な方向性選択勾配が検出された。しかし、有意な安定化あるいは分断選択は検出されなかった。すなわち、雌には、より大きな卵塊を早く産卵し、より長く卵・幼虫に随伴する方向に自然選択が働いている。 雄に働く性選択:ヤマグワ上で発見された、交尾に成功した雄と未交尾の雄を全て回収して、形態(体長、前胸幅、交尾節幅、後脚腿節長、前翅長、前翅FA)に働く性選択を測定した。適用度要素には交尾成功を用い、交尾個体に1、未交尾個体に0の値を与えた。有意な方向性選択差は、いずれの形質にも検出されなかった。しかし、選択勾配を求めたところ、体長と前翅長には正の、前胸幅と後脚腿節長には逆に負の有意な方向性選択が検出された。安定化あるいは分断選択は、いずれの形質にも検出されなかった。雄のこれらの形態形質では、見かけ上、性選択による平均的表現型の変化は検出されないが、実際には形質毎に拮抗した選択が働いていることがこの分析によって明らかになったと言える。このことは、選択の測定において、複数の相関した形質を同時に考慮することの重要性を示している。
|