研究概要 |
本年度は、種間比較法を用いたツノカメムシ科の繁殖戦略の進化的変遷の分析を中心とした研究を行った。 日本産の19種(うち亜社会性8種)について以下の形質データが得られた:体サイズ、保護期間(野外で親の随伴が確認された子供の最も進んだ発育段階)、卵サイズ、クラッチサイズ、産卵当り繁殖投資(前2形質の積)、卵と1令幼虫の発育速度(20℃15L9D条件での期間)。分析結果は以下の通りであった。 1)雌の体サイズと卵サイズ、クラッチサイズ、繁殖投資は正に相関していた、しかし、保護習性の有無でアロメトリー係数が異なり、卵サイズや繁殖投資が亜社会性種で大きいと単純には結論できなかった。2)相対(体サイズの影響を除いた)卵サイズと相対クラッチサイズとの間には負の相関が認められ、この両者がトレードオフの関係にあることが示唆された。3)保護期間と体サイズとの間に、有意な相関は認められなかった。保護期間と相対卵サイズは相関しておらず、保護期間と相対繁殖投資との間にも相関は認められなかった。4)卵サイズと卵・1令幼虫の発育速度の間に、相関は認められなかった。一方、卵と1令幼虫の発育速度は正に相関していた。 これらの結果の中で、親の保護と卵サイズの関係は特に注目に値する。これまで、様々な動物群で保護行動の程度と卵サイズの間に正の相関が報告されてきたが、ツノカメムシ科にはこの関係が当てはまらなかった。親の保護に伴う卵の大型化を説明するSafe habor仮説(Shine,1978)を始めとした従来の理論に、再考をせまる結果と言えよう。今後、ツノカメムシ科の親の投資パターンに影響を与える制限要因の特定を進め、それらと繁殖形質との相互関係をさらに検討する必要がある。
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