本研究では植物細胞膜ミクロドメインにおけるカルシウム依存的情報伝達機構の解明を目的として、これまでにカルシウム依存性プロテインキナーゼの基質となりうるアブシジン酸誘導性の19kDa細胞膜タンパク質を小麦培養細胞から精製し、部分アミノ酸配列の情報からcDNA(WPM-1)を単離した。アブシジン酸は、植物細胞において一時的に細胞質のカルシウムイオンを上昇させるとともに凍結耐性の発現など細胞の生理学的機能を調節することが知られており、その情報を伝える上でカルシウム依存性プロテインキナーゼが重要な役割を果たすと考えられている。アミノ酸配列の解析からWPM-1は4つの膜貫通ドメインを持つ疎水性で、しかもpl=10.2の塩基性タンパク質であることが明らかになった。さらに、細胞質側にあると思われる親水性ループには、Arg-Xaa-Xaa-Serというカルシウム・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ基質のコンセンサス配列が見い出された。これらのことから、細胞膜WPM-1タンパク質は、アブシジン酸が引き起こす膜周辺の一時的なカルシウム増加によって、リン酸化による修飾を受けている可能性が示唆された。WPM-1mRNAは通常の細胞での発現は極めて少ないが、細胞をアブシジン酸処理すると1時間以内に発現が顕著に誘導される。この誘導はカルモジュリン阻害剤のW-7では抑制されなかったが、カルシウムキレーターであるEGTA処理によってmRNA蓄積が部分的に抑制された。WPM-1の細胞膜周辺環境のホメオスタシスに果たす役割について明らかにするため、抗ペプチド抗体とリコンビナントタンパク質を作成し、生化学的、分子生物学的手法によりWPM-1と相互作用するタンパク質の同定を行っている。
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