高等植物の花粉内に存在する雄性配偶子細胞の核は、動物の精子核同様、高度な凝縮型である。これまでに、申請者らはユリの雄性配偶子核に特異的に存在する3種のヒストン変種(gH2A、gH2B、gH3)を見いだし、これらのcDNAの単離に成功した。これら3種の遺伝子産物を体細胞型コアヒストンと比較すると、それぞれ約40〜50%の相同性しかなく、非常に特殊化された分子であることが明らかとなった。本申請研究では、雄性配偶子分化の過程におけるこれら特異的ヒストン種の発現解析をおこなった。 ユリの各花粉発生過程のステージの花粉から全RNAを抽出・精製し、それぞれのcDNAをプローブとして、ノーザン解析をおこなった。その結果、これらの遺伝子は花粉母細胞や小胞子(一核性花粉細胞)では発現せず、3種とも雄原細胞が形成された後の二細胞性花粉でのみ発現することが明らかとなった。次に3種の遺伝子の発現部位を特定するため、ディゴシキゲニン(DIG)のシステムをもちいたin situハイブリダイゼーション法をおこなった。その結果、mRNAの存在を示すシグナルは3種のプローブともに花粉内の雄原細胞の細胞質からのみ得られ、栄養細胞や小胞子の細胞質からは得られなかった。以上の結果から、gH2A、gH2B、gH3は雄原細胞内で特異的に発現する遺伝子であることが明らかとなった。これまで花粉の栄養細胞質でのみ発現する遺伝子(いわゆる花粉特異的遺伝子)の報告は多々あるが、雄性配偶子細胞(雄原細胞と精細胞)で特異的に発現する遺伝子の報告はなく、本遺伝子群が初めての事例である。 平成10年度は、ユリ以外の植物種に同様の分子が存在するかを検索するとともに、これらヒストン遺伝子のプロモーター領域を単離することによって、雄性配偶子細胞内での遺伝子発現調節機構の解明に迫りたいと考えている。
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