本年は免疫学的手法により接着分子を分離同定することを中心にして行った。 まず、gp64の発現を抑制した細胞性粘菌の粗膜画分を抗原としてウサギ15羽に免疫し、抗血清を得た。血清は採血ごとに細胞接着阻害活性を調べもっとも強い細胞接着阻害活性を示したところで大量採血した。このような方法により1リットル以上の細胞接着阻害活性のある抗血清の調製を終えた。抗体の保存については、凍結融解による細胞接着阻害活性に対する影響等を調べた。その結果、細胞接着阻害活性は数回の凍結融解では失われないことを確認した。また、以上のような抗血清の調製にはより簡便な抗体による細胞接着阻害活性の測定法の確立が不可欠であった。そこでこの抗血清の調製と平行して、抗体を用いた細胞接着阻害活性の簡便な測定法も確立した。ここで問題となるのは二価性の抗体のままでスクリーニングできるかどうかにある。そこでまず二価性の抗体が架橋してしまうことによりむしろ細胞の凝集を起こしてしまう細胞密度と抗体濃度の検討を行い、細胞凝集のおこらない範囲を決定しその中でさらに架橋形成を阻害するように抗ウサギFabフラグメントを加えることにより細胞接着阻害活性の測定を行った。さらに、得られた抗血清からIgGを精製し、パパインによる限定分解によりFabフラグメントを調製した。このFabフラグメントを用いて細胞接着阻害活性を測定したところ、ほぼ完全に細胞集合期の細胞接着を阻害した。一方で、細胞性粘菌の糖タンパク質糖鎖は特殊な構造を持つため抗原となりやすい。そこで本抗体の接着阻害効果が複数の分子に共通して存在する糖鎖構造によるものではないことを証明するために、糖鎖構造が不完全な変異体を用いた細胞接着阻害活性についても検討を進めている。以上の結果に基づき、現在本抗体の細胞接着阻害活性を引き起こすもととなる細胞接着分子の分離同定を試みているところである。
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