二形性を有し、日和見感染にも関わる酵母Candida albicansを材料に、その形態形成における微小管の役割を解析するため、分泌オルガネラの細胞内分布と細胞骨格の関係について調べた。分泌阻害剤brefeldin A処理により菌体内部にゴルジ体様構造が蓄積することをすでに報告したが、その局在を微小管の阻害剤が著しく乱すことを新たに報告した。酵母の分泌に重要な細胞骨格要素としてアクチンが有名であるが、このゴルジ体様構造の局在にはアクチンは関与していないことも併せて示した。さらに微小管形成の制御について洞察を深めるため、制御因子の一つとして知られるγチューブリン遺伝子をこの材料から単離し、その機能、構造の解析を開始した。方法として、近縁であり、かつ遺伝子解析が容易なパン酵母S.cerevisiaeを用いた。γチューブリンは普遍性の高いタンパクであるが、C.albicansのγチューブリン様遺伝子は他の生物のそれと相同性が極めて低い.ことをすでに昨年度明らかにしている。C.albicansγチューブリン様遺伝子を多量発現させたところ、パン酵母自身のγチューブリンを相捕することが分かった。また緑色蛍光タンパク(GFP)との融合遺伝子は、パン酵母の微小管形成中心に局在した。C.albicansのγチューブリン様遺伝子はパン酵母のそれとも相同性が極めて低く、それでもなお局在し、相捕する能力があったことは、チューブリン研究において極めて意外な結果であった。現在これらの結果を受け、共通性を突き詰めることでγチューブリンの基本的構造が見い出せるのではないかと考え、検討を進めている。他方、C.albicansγチューブリンに置き変えられたγチューブリンを持つパン酵母は、いくつかの微小管阻害剤に異なる感受性を示した。違いの原因遺伝子がγチューブリン遺伝子であることから、これまで知られていない阻害剤の標的として、応用的観点からも今後検討すべき結果を得た。
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