脊椎動物で、ウナギは、唯一、in vitro系で精子形成を完全に再現できる動物であり、これまでに生殖腺刺激ホルモン/11-ketotestosterone(精子形成誘起ホルモン)/アクチビンβというカスケードで精子形成が開始することが明らかとなっている。この研究は精子形成開始の分子機構を「生殖細胞の分化/細胞分裂周期の転換」という側面から明らかにすることによって精子形成過程における生殖細胞と体細胞間の協関を明らかにすることを目的とする。最近、筆者が作製したポリクローナル抗体の一つが、少なくとも、ウナギを含む数種の硬骨魚類(メダカ、ゼブラフィッシュ、ティラピア、ニジマス)と無尾両生類(アフリカツメガエル)の精巣組織内の約38kDaの蛋白質を特異的に認識すること、さらに、幹細胞型の精原細胞の細胞質の一部のみを認識し、精子形成の方向に分化した精原細胞(8型/二次精原細胞)、精母細胞、精子細胞、精子、精巣体細胞を認識しないことを免疫組織化学法によって確かめた。この抗体をプローブとして、この抗原分子をコードするcDNAをクローニングし、この抗原分子の化学的実態を解明することを試みている。ウナギの精巣組織のmRNAより作製した発現ライブラリーを上述した抗体(anti-spermatogoniaspecificantigen-1:anti-SGSA-1)でイムノスクリーニングを行った結果、既に幾つかのポジティブクローンを得た。現在、得られたcDNAがコードしているタンパク質のリコンビナントを用いて抗体の作製を行なっており、このcDNAがSGSA-1であるか否かの検定を継続中である。また、SGSA-1抗体を用いてSGSA-1の性質を調べたところ、上述の精巣での分布を調べた動物において、精原細胞以外に卵巣中の幹細胞型の卵原細胞、増殖型の卵原細胞、そして卵母細胞(いわゆる肥大卵母細胞のステージまで)の細胞質に特異的な免疫反応産物がみられた。また、イムノプロット解析から精巣組織と同様に約38kDaの蛋白質を特異的に認識することを確かめた。現在まで、この分子の実態は明らかになっていないが、これら一連の結果はSGSA-1が生殖細胞の性分化に重要な役割を果たしていることを強く示唆するものである。
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