昨年度はショウジョウバエ脳内に存在する概日リズム同調に関与する光受容器の同定を目指し、植物やマウスで見つかっている、cryptochrome-likeなタンパクをコードする遺伝子のPCRによる検索を行い、複数の増幅断片を得た。この断片の解析を進めていたところ、京都大学の藤堂助教授のグループが、同様の手法ですでにショウジョウバエcryptochrome遺伝子(以下cryと略)のcDNA全長のクローニングに成功しているとの情報を得て、共同研究を開始した。cryは唾液線染色体の92A1-2にマップされ、そのmRNAはembryoの時期を除き、発生の全段階を通じて発現していた。また、成虫では頭部でも体幹でも発現が見られた(以上は藤堂助教授のグループによってすでに得られていたデータである)。概日リズムに関与する遺伝子はそのmRNAや蛋白質が量的に概日変化を示すことが知られている。そこで、頭部でのcry mRNAの概日変動をRNaseProtection Assay法によってモニターした。明暗条件では昼にピークを持つ明瞭な概日振動が観察された。恒暗条件では、1日目には概日振動が観察されたが、以降は急速な振動の減衰がみられた。無周期突然変異のper^<01>やtim^<01>では、明暗条件下であってもcry mRNAには変動が見られなかった。このことから、cry mRNAの転写は概日時計の支配を受けることが推察される。次に、cryの概日系光受容への関与を調べるために、cryの異所的強制発現系を用いた実験を行った。cryをcytoplosmic actinのプロモーターによって強く発現させた後、光パルスに対する位相反応を調べた。その結果、cry強制発現系統では主観的夜の前半に起こる光パルスによる位相後退が著しく阻害されることがわかった。このことから、cryが概日時計の光受容に関与することが示唆された。これらの結果は論文にまとめられ、Genes to Cellsに掲載予定である。
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