イチジク属植物とイチジクコバチ類の送粉共生系は、非常に厳密な1対1の種間対応関係が見られ、植物と昆虫の共進化の最も顕著な例であるとされる。この送粉共生系の成立にはイチジク属植物子房内に寄生するコバチ類が授粉を行うようになったことが、最も重要な役割を果たした進化過程であると考えられている。イチジクコバチ類にとって授粉を行うことは、胚乳を発達させ十分な幼虫の餌を用意することができるという意味で適応的であるとされていたが、このことが調べられたのはこれまでの1種のみで、全てのイチジクコバチ類にとって同様の適応的意義があるのかは、これまで検討されたことがなかった。本研究ではその第一段階として、日本産のイチジク属植物6種とそれに共生するイチジクコバチ類に関して授粉行動を調べ、授粉行動の進化とその適応的意義の解析の基礎情報を整える事を目的とした。その結果、6種のうち花粉ポケットをもつイチジクコバチに授粉される4種のイチジク属植物(ガジュマル、ハマイヌビワ、オオバイヌビワ、ギランイヌビワ)では、花粉ポケットから花粉を取り出して柱頭につける能動的授粉が観察されたのに対して、花粉ポケットをもたないイチジクコバチに授粉される残りの2種(オオイタビ、イヌビワ)ではそのような行動は観察されなかった。前者4種では花嚢内の雄花の割合は10%以下であるのに対し、後者2種では20%以上に達するのは、花粉ポケットをもたないグループの授粉効率の悪さを補うためであると考えられる。次年度はこの情報をふまえて、特に花粉ポケットをもたないイチジクコバチ類にとって、イチジク属植物を受粉させる事にどのような適応的な意義があるのかを実験的に明らかにしていく予定である。
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