研究概要 |
渓流沿い植物とは、降雨に伴う川の増水によって周期的に水没する渓流帯にのみ生える特殊環境植物のことである。これらの植物は幅の狭い流線型の葉(狭葉)など独特の形態を備えることによって急流の抵抗に耐えている。渓流沿い植物はサボテン科のように特殊環境に適応した一つの祖先種がたくさんの種に分化したのではなく、様々な植物種から独立に何回も進化したことになる。このことは、同じ選択圧下における独立の適応進化過程を複数取り上げることを可能とする。 申請者は、鹿児島県屋久島に自生する渓流沿い植物種:ヤクシマダイモンジソウを材料として同種内の林下型(広葉型)との交配実験、生態調査などを行ってきた。その結果、ヤクシマダイモンジソウでは狭葉がたった一つの優性遺伝子によって支配されているらしい(F2世代でl:1や3:1の様な単純な割合に分離する)ことを突き止めた。また、ヤクシマダイモンジソウでは、狭葉と広葉の集団内多型が渓流沿いで見られるが、台風などによる大規模な増水の後には広葉の方が狭葉よりも大きな被害(葉がちぎれるなど)を受けていることも観察した。 本年度は、屋久島においてヤクシマダイモンジソウの狭葉型と広葉型の共存する集団を個体識別した上で継続的に観察し、狭葉をもつ個体の生存力と繁殖力を広葉をもつ個体のそれと比較することによって、狭葉を支配する遺伝子をもった個体の適応度を定量的に推定することを試みてきた。これまでの調査データを整理し、とくに増水による葉の損失率、死亡率等を狭葉型と広葉型で比較した結果、増水を経験した個体では、狭葉型の適応度は広葉型の5-7倍になることが分かった。増水を経験していない個体群では、逆に広葉型の適応度の方が狭葉型の3倍程になる。 あわせて狭葉化の遺伝子を特定するために,AFLP遺伝マーカーの開発を行った。今後、F2個体を使って狭葉化遺伝子のQTL解析を行う予定である。
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